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情シス泣かせのアカウントトラブル、その予防策とは

  • 執筆者の写真: KOBAYASHI
    KOBAYASHI
  • 9月8日
  • 読了時間: 4分
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ログインできない──たったそれだけで業務は止まる

出社して最初に開くのは、メールでもチャットでもなく「ヘルプデスクの問い合わせ一覧」という情シス担当は少なくありません。そこに並ぶのは、機器トラブルやネットワーク障害だけではなく、むしろ日常的に多いのは次のような連絡です。

「管理画面にログインできません。」「パスワード忘れました。」「認証コードが届かないんですけど。」

こうしたアカウントトラブルは、実は単なる社員のうっかりではなく、クラウド利用が前提の業務環境が抱える構造的な問題でもあります。


なぜクラウド利用でトラブルが増えるのか

従来のオンプレミス環境(※)では、業務システムへのログインは限られた数のID・パスワードで済んでいました。

しかしクラウド化が進むと、企業は複数のSaaSサービス(Software as a Service)を併用するようになります。経理は会計ソフト、営業はCRM、バックオフィスは勤怠管理。部署ごとに異なるクラウドを使えば、社員は複数のIDを覚え、管理する必要が出てきます。さらに、セキュリティ強化のためにパスワードポリシーを厳格化し、定期変更や多要素認証(MFA)を義務化すると、トラブルの発生率はさらに上昇します。

「セキュリティを守るための仕組み」が、皮肉にも業務の停滞を生んでしまうのです。

※オンプレミス環境とは、企業や組織が自社の建物や施設内にサーバーやネットワーク機器を設置し、自前で運用・管理する形態のことです。クラウドのように外部のデータセンターを利用せず、物理的にも運用的にも「社内完結」しているのが特徴です。


アカウントトラブルがもたらす現場の混乱

1件のパスワードリセット依頼は、表面上は数分の対応に見えます。

しかし実際には、本人確認 → リセット処理 → 新しいパスワードの通知 → 再ログイン確認まで、情シスやヘルプデスクの時間を確実に奪います。対応中、本人の業務は完全にストップし、場合によってはチーム全体の進捗が遅れます。さらに、同時多発的に発生すると対応待ちが発生し、重要案件を抱えていた社員が「認証できないまま数時間」待たされることもあります。その影響は見えにくいですが、積み重なれば確実に生産性の損失へとつながります。


よくある落とし穴はどこにあるのか

現場の声を集めると、アカウントトラブルには共通した発生ポイントがあります。

  • 複数アカウントの混在社用アカウントと個人アカウントを同じブラウザで利用し、ログイン情報が衝突。GoogleやMicrosoftなど、シングルサインオン型でも発生する。

  • パスワード管理の形骸化覚えきれず、個人スマホなどにメモしてしまい、結局セキュリティリスクに。忘れないように各サービスで同じパスワードを使い回し。

  • 異動・退職時の権限残存使われないアカウントが放置され、後に管理工数やセキュリティの穴になる。

  • 多要素認証の一極依存認証デバイス(スマホ)が故障・紛失すると、業務復旧までに日数がかかる。

  • 外部委託や派遣社員の短期利用短期間だけ利用する人にも同じ手順を踏むため、手間と管理コストがかさむ。



予防策は「仕組みの自動化」と「ルールの見える化」

アカウントトラブルを減らすには、対症療法ではなく未然防止のアプローチが必要です。

  1. ID管理ツールの導入OktaやAzure ADなどのIDaaSを導入し、すべてのログインを一元管理。ユーザーは1つの認証情報で複数のサービスを利用可能に。

  2. アカウントライフサイクルの自動化入社・異動・退職に合わせて権限を自動付与・変更・削除する仕組みを構築。権限の付け忘れや消し忘れを防ぐ。

  3. MFAの多経路化スマホアプリだけでなく、メールや物理キーなど複数経路を用意し、緊急時の認証手段を確保。

  4. 標準化された利用端末設定ブラウザやアプリの設定、セキュリティポリシーを全社で統一し、環境依存のログイン不具合を防止。

  5. 利用ガイドラインの日常化パスワードの作り方やMFA設定手順を社内Wikiや動画で共有。必要なときに即アクセスできる状態にしておく。


導入時のハードルと乗り越え方

新しい管理ツールやルールの導入には、必ずコストと社内調整の壁があります。「今までのやり方で大きな問題は起きていない」という現場の抵抗もあります。しかし、アカウントトラブルは発生率が低くても影響が大きい性質を持つため、1件でも発生すれば投資効果が実感できる領域です。

導入の第一歩としては、最も利用頻度の高いクラウドサービス1〜2種類に限定して統合管理を試すのがおすすめです。運用の安定化と効果測定を行い、徐々に対象範囲を広げることで、現場の負担も最小化できます。


情シスの役割を『火消し役』から『仕組みの設計者』へ

日々のパスワードリセットやログイントラブル対応に追われていると、本来のIT戦略やセキュリティ強化に割ける時間がなくなります。アカウント管理を効率化し、トラブルを未然に防げれば、情シスはより高付加価値な仕事に集中できるようになります。業務効率化は単に情シスを楽にするだけでなく、会社全体のパフォーマンスを底上げする取り組みです。

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